循環器内科医の本棚

循環器内科医による患者さん、一般内科医、研修医のためのブログ

患者さんのための 危険な胸痛の特徴

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胸が痛くなる病気には心臓、血管、肺、食道、胃、筋骨格系、精神的なものなど多岐に渡りますが、胸が痛い病気の中には心筋梗塞など命に関わるこわい病気が含まれている場合があります。

症状だけでは病気を診断することはできませんが、典型的な要注意症状を下に挙げました。当てはまるものはありませんか?

ただし、典型的な症状を来さないこともありますし、特に糖尿病の人は心筋梗塞になっていても痛みが出ないことがあります。あてはまらないので安心というわけではないので、ご参考までにしてください。

狭心症や心筋梗塞を疑う胸痛

・胸が重苦しい、圧迫されているような感じ

・痛い部分がぼんやりしている、手のひらくらいの比較的広い範囲

・かなり程度の強い痛み

・運動すると胸の症状が出て、休むとよくなる

・はじめは運動するときだけ症状が出ていたが、だんだん休んでいるときにも出るようになった

・夜寝ているときや明け方に痛むことが多い

・冷や汗が出る

・吐き気や嘔吐がある

・胸の痛みと同時に顎や歯、肩、背中も痛い

・動脈硬化のリスクとなる疾患(高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、慢性腎不全)を持っている

・血のつながった家族で狭心症や心筋梗塞を起こした人がいる

狭心症や心筋梗塞の可能性が低い胸痛

・チクチクとした針で刺すような痛み

・指で示すことができるようなピンポイントの痛み

・息を吸うと痛い(胸膜炎、肺炎、気胸など肺の病気である可能性があります)

・腕を動かしたり、胸に力を入れたりすると痛い(筋骨格系の痛みである可能性があります)

・空腹時、満腹時など食事のタイミングで痛みが出る(胃や十二指腸の痛みである可能性があります)

・胃酸がこみ上げる感じやげっぷが出る(逆流性食道炎の可能性があります)

・ピリピリとした痛み(神経痛の可能性があります)

・ピリピリとした痛みで皮膚の発疹がある(帯状疱疹の可能性があります)

痛みの特徴に関わらず、病院受診したほうがよい症状

・痛みの程度がひどくなってくる場合

・痛みの持続時間が長くなってきている場合

「様子をみていたけれど、悪くなってきたな」という風に感じる場合は一度病院を受診しましょう。

最終的には症状だけでは診断できない!

典型的な症状というものは存在しますが、非典型的な症状を来す患者さんもいっぱいいらっしゃいます。どういう症状にせよ、悪くなっているようであれば、受診したほうがよいでしょう。

「狭心症や心筋梗塞を疑う胸痛」に当てはまる症状があった場合は早めに循環器を受診しましょう。まずは血液検査、心電図、胸部レントゲン、心エコーなどの検査を受けて、心臓の病気でないかをチェックします。

「狭心症や心筋梗塞の可能性が低い胸痛」の場合にも肺や胃、十二指腸の病気である可能性があるので症状が続く場合は受診しましょう。CTや上部内視鏡検査(胃カメラ)を行うことで診断がつく場合があります。

どこの科にいけばいいの?

胸痛を来す病気は多岐にわたるので、何科に行けばよいかわからない場合も多いと思います。

・「狭心症や心筋梗塞を疑う胸痛」に当てはまる症状があった場合→循環器内科

・息を吸った時の痛み、咳がある→呼吸器内科

・空腹時、満腹時など食事のタイミングで痛みが出る、胃酸がこみ上げる感じやげっぷが出る→消化器内科

・皮膚の湿疹を伴っている→皮膚科

わからない場合は一般的な内科でもよいですし、一番自分の症状に近そうなところから選んでも大丈夫です。採血、心電図、レントゲンなど一般的な検査はどこの科でもできるので、検査結果次第で必要な科に紹介してもらえます。

心配であれば一度受診をお勧めします。

   

γ(ガンマ)計算 わかりやすい早見表

γ(ガンマ)計算で投与する薬剤、いちいち計算が面倒ですよね。ドパミン、ドブタミン、ノルアドレナリン、ランジオロール、hANPのγ(ガンマ)計算早見表を作成しました。

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γ計算 早見表

例えばhANPを体重50kgの患者さんに0.025γで投与したい場合は、記載のとおりに溶解した薬剤を1.9ml/hで投与します。ノルアドレナリンを体重50kgの患者さんに0.05γで投与したい場合、記載のとおりに溶解し、0.1γが5.0ml/hなので、半分の2.5ml/hで投与します。

γ計算の式

1γ[µg/kg/min]=0.06×体重÷濃度(mg/ml) [ml/h]


単位からもわかるように1γは1分間に1kgあたり1µgの薬剤を投与するという意味で、カテコラミンなどの厳密な量で投与することが必要な場合はγを用います。実際に投与するときには[ml/h]に変換しなければなりません。

今日の本

研修医必携!ICUで使用する薬剤の溶解方法なども書かれていて、実用的な一冊。


 

www.drtottoco.site

 

 

こんなときどうする?発作性心房細動 入院編

f:id:drtottoco:20210212213916p:plain入院中の患者さんの心房細動(AF)、よく他の科の先生方からコンサルトを頂きます。

入院中ってどうしても心房細動出やすいですよね。特に術後は手術の侵襲や脱水が影響して心房細動になる方多いです。術後心電図モニターを付けているので、本人は何の症状もなくても見つかってしまうんですよね!

入院中の心房細動発作の対処の例を挙げていきます。

 AFに伴って血圧が下がってしまうとき、症状が強いとき

症状の有無に関わらず、血圧が下がってしまう場合にはすぐに対処しなければなりません。レートコントロール、リズムコントロールどちらでもよいと思います。

レートコントロールの場合はβ遮断薬を使います。心機能がよいことがわかっていればベラパミル(内服、静注)を使ってもよいです。どのくらい血圧が下がって緊急性があるかにもよりますが、β遮断薬は内服、静脈注射(ランジオロール 商品名:オノアクト)、貼付薬(ビソプロロール 商品名:ビソノテープ)があります。あまり急がない場合は内服でもよいですし、貼付薬も比較的速やかに効くので、術後で内服困難な場合にはよいでしょう。血圧がかなり低下してしまう場合はリズムコントロールもしくはランジオロール点滴がよいです。

抗凝固薬を内服していなくて、リズムコントロールの場合には発症から48時間以上経過していないことが必須になります。これまで心房細動を指摘されておらず、発症から48時間以内であれば血栓のリスクは低いので、サンリズムの投与や電気的除細動をしてもOKです。

血圧低下、無症状のとき

こういうときは焦らず経過観察でよいです。ただし、HRが高すぎると心不全を来してしまう場合があるので、HR<110キープが目標です。急ぎませんが、HR>110がしばらく続くようであればβ遮断薬などでレートコントロールをするほうがよいでしょう。

その後の抗凝固薬は?

持続時間とCHADS2 scoreで決定します。

CHADS2 score 0点、持続時間も数時間であれば抗凝固薬はすぐに導入せずに経過フォローします。心電図モニターを継続し、以降発作が出なければ抗凝固薬をすぐに始める必要はありません。治療中の疾患の状態が落ち着けば、PAFは出なくなるかもしれません。

CHADS2 score 1点以上、持続時間が長い、持続時間は短くても複数回PAFを来すようであれば抗凝固薬は入れて、退院後も継続するほうがよいでしょう。

 

アスピリンの抗血小板作用-アラキドン酸カスケード

抗血小板薬内服中の患者さん。消化管出血を起こし、貧血が進行して入院になりました。抗血小板薬の内服を中止して、赤血球輸血を行います。

研修医「抗血小板薬を内服していて出血しやすくなっているんですよね?血小板輸血もいりますか?」

と、時々聞かれます。これは勘違いなのですが、なぜか説明できますか?

アスピリンの作用機序、アラキドン酸カスケードを復習してみましょう。

通常のアラキドン酸カスケード

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アラキドン酸カスケード

こちらは正常状態のアラキドン酸カスケードです。機械的な刺激などで細胞膜リン脂質からアラキドン酸が放出されます。アラキドン酸はシクロオキシゲナーゼ(COX)によりトロンボキサンA2(TXA2)となり、血小板凝集や血管収縮作用により血栓形成が促進されます。また、同じくCOXによりプロスタグランディン(PGI2)もでき、こちらは血小板凝集抑制と血管拡張により血栓抑制作用を来します。血栓に関しては両者は反対の働きをします。一方、リポキシゲナーゼにより炎症、アレルギー物質を放出するロイコトリエン(LT)も生成されます。

アスピリン100㎎を投与した場合

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アスピリン100㎎投与時のアラキドン酸カスケード

アスピリンはCOXを阻害します。するとTXA2の生成が低下し、血小板凝集能が低下、血栓促進作用が抑制されます。これがアスピリンの抗血栓性の作用機序です。PGI2も減少するので血栓抑制作用も阻害されますが、100㎎と少量であればTXA2の抑制が大きく働くので、血栓を抑制する作用のほうが優位になります。容量により作用が変化し、アスピリンジレンマと言われます。

一方、COXが抑制されると、アラキドン酸はリポキシゲナーゼによる代謝が進み、ロイコトリエンが増加、アレルギー反応を来します。これがアスピリン喘息です。

 

つまり、アスピリンにより血小板は凝集が抑制されるだけで数が減るわけではありません。そのため血小板輸血は不要です。貧血が進行している際は赤血球輸血、出血源の同定と治療が必要になります。

心アミロイドーシスを疑う所見

心不全、徐脈性不整脈、心房細動を来す患者さん。これらに対して治療するのはもちろんですが、背景に基礎疾患が隠れていないかどうかを検索することが大変重要です。

治療が可能な疾患が隠れていないでしょうか?

どういう所見があった場合に心アミロイドーシスを疑うか?症例の画像を提示しながら説明します。

心電図

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左が1年前、右が現在です。1年間で全体的にR波が減高しており、Ⅰ度房室ブロックも見られるようになっています。1年間でこんなに心電図が変化することは普通ではないので、進行性の心筋症を疑って検査をしていきます。

エコー

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著明な壁肥厚を認めます。特に中隔ではgranular sparkling signと言って高輝度の部位が見られることもあります。ただし、見られる頻度は低いです。

心臓MRI

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エコーと同様、壁運動の肥厚は認められます。

その他late gadolinium enhancement(LGE)といってガドリニウム造影剤が心筋に残ってしまう、心筋障害を示唆する所見を呈することがあります。矢印で示されているように心内膜側に造影剤がたまっている所見を認めます。

心筋生検

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DFT染色


生検でアミロイド蛋白が証明されれば確定診断となります。コンゴーレッド染色やDFT染色が使われます。上の写真では赤く染色されている部分がアミロイド蛋白です。アミロイド蛋白が認められれば型の判定をするために免疫染色が追加されます。

 

まずは心電図やエコーからアミロイドーシスを疑い、診断に結び付けましょう!


 

 

アミロイドーシスを診断する

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アミロイドーシスってどういうイメージでしょうか?血液疾患?稀であり、自分は診ることのない疾患と思っていませんか?

アミロイドーシスは全身に症状を来す病気です。初期には非特異的な症状を来すため、なかなか診断されにくいのが現状です。しかし、今、疾患を診断することの重要性が高まっています。ビンダケル、オンパットロといったATTRアミロイドーシスに対する新しい薬が開発され、アミロイドーシスの予後が改善することが期待されているからです。

まずはアミロイドーシスを理解し、疑うことが、早期診断の第一歩です。

アミロイド蛋白の沈着が来す全身症状

アミロイドーシスはアミロイド蛋白という異常な蛋白が全身臓器に沈着することにより、症状を来す疾患です。

 

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アミロイドーシスの分類

沈着する蛋白の違いにより大きく下記に分けられます。診断は臓器に沈着したアミロイド蛋白を証明することが必要です。

・ALアミロイドーシス

 骨髄で産生される異常形質細胞から産生される免疫グロブリン由来のアミロイド蛋白が沈着します。疑ったら、免疫電気泳動、M蛋白、尿中・血中ベンスジョーンズ蛋白などの検査を行います。治療としては自家末梢血幹細胞移植、化学療法がありますが、アミロイドーシスの中では最も予後不良です。

・ATTRアミロイドーシス

本来、変異型ATTRアミロイドーシスは肝移植が唯一の治療であり、野生型ATTRアミロイドーシスは対症療法のみとされていました。しかし、先ほどの述べたように近年、新たな薬剤が開発され、予後改善が期待されています。

変異型ATTRアミロイドーシス:遺伝的に変異したトランスサイレチン(TTR)を前駆蛋白として異常蛋白が作られ凝集し、臓器に沈着します。前駆蛋白を安定化させる薬剤であるビンダケルや異常ATTRを合成するmRNAを阻害するオンパットロが開発され、現在使用されています。

  野生型ATTRアミロイドーシス:もともとは老人性アミロイドーシスと言われており、野生型TTRを前駆体として異常蛋白が合成され、臓器に沈着します。変異型と同様、ビンダケルが使用できるようになりました。

  透析アミロイドーシス:透析による合併症の一つでβ2ミクログロブリンが沈着することによりアミロイドーシスを来します。

・AAアミロイドーシス

 関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に伴う。炎症性蛋白の代謝物であるアミロイドA(AA)が臓器に沈着することで起こります。

 

心アミロイドーシス

全身の臓器に症状を来すアミロイドーシスですが、特に心臓への沈着は予後不良とされています。心臓にアミロイドが沈着することで心不全を来したり、刺激伝導系にアミロイドが沈着することで不整脈(徐脈性不整脈、心房細動など)を来したり、心突然死の報告もあります。

心アミロイドーシスを疑うのはこれらの症状を呈していることに加えて、著明な心肥大を伴っている患者さんです。心筋生検を行い、アミロイド蛋白を証明します。

まずは疑うことが重要!早期診断をして、早期治療に結び付けたいものです。

心筋梗塞後の患者さんに必須の薬4つ

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心筋梗塞を起こした患者さん、無事に退院した後も再発予防、心不全の予防やコントロール、気を使わなければならないことがたくさんあります。

心筋梗塞後の患者さんは4つの薬が必須になります。ちゃんと全部入っていますか?

言わずもがな、抗血小板薬

言うまでもありませんが、ステント内血栓目的に必須なのが、抗血小板薬。カテーテル直後はバイアスピリン+プラビックス or エフィエントとなっていることが多いと思いますが、出血のリスクと虚血イベントのリスクを天秤にかけて1剤に減らすのは以前に述べたとおりです。

大出血のイベントがない限りは最低でも1剤は一生継続します。

ストロングスタチン LDL<70をキープ

心筋梗塞後の患者さんはPCIの翌日からストロングスタチンを高用量内服します。心筋梗塞を起こした直後はLDLが下がることも報告されているため、心筋梗塞入院時の採血でLDLがあまり高くなかったとしても、その値はあてになりません。スタチンの中でも必ずストロングスタチンを使用することが推奨されています。

一次予防の患者さんはリスクに応じてLDLの目標値が決まっていましたが、二次予防の患者さんはLDL<70を目標に管理します。一次予防の患者さんと混同して、LDL<100だからと言って減量してはなりません。ストロングスタチンを最大容量使用してもLDL<70が達成できいない場合は、エゼチミブを併用したり、PCSK9阻害薬を併用したりします。

一次予防の患者さんについてはこちら↓

β遮断薬

心不全のときと一緒で、β遮断薬は最大容量入れるようにします。高齢者は特に徐脈と血圧低下に注意が必要です。

ビソプロロールは0.625㎎錠から最大5㎎まで、カルベジロールは2.5㎎錠から最大20㎎までです。実際には患者さんの年齢によって考慮しますが、最小容量から始めて、脈拍数と血圧をモニターしながら3日くらいずつ徐々に増量していきます。

ビソプロロール、カルベジロールの大きな違いはβ1選択性があるかどうかです。ビソプロロールはβ1選択性があるため、気管支喘息やCOPDがある人にはビソプロロールを使用するようにしましょう。

そしてβ遮断薬のもう一つの注意点として、慢性的に投与しているときに急にやめてはならないということがあります。β遮断薬を慢性的に使用している人はup regulationでβ受容体が増加しており、離脱症候群(血圧の上昇、虚血症状の出現、不整脈の増悪)を来すことが知られています。急激な中止は避けましょう。

ACE阻害薬

こちらも心不全と同様、予後改善のエビデンスがある薬です。こちらも血圧や高K血症に注意しながら可能な限り継続します。

 

もし、これらの薬が入っていない心筋梗塞後の患者さんがいたら、「何か理由があるのかな?」と思うくらいに必須の薬です。心筋梗塞を一度発症すると一気に内服薬が増えてしまうので、コンプライアンスを確認することも重要です。