循環器内科医の本棚

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アスピリンの抗血小板作用-アラキドン酸カスケード

抗血小板薬内服中の患者さん。消化管出血を起こし、貧血が進行して入院になりました。抗血小板薬の内服を中止して、赤血球輸血を行います。

研修医「抗血小板薬を内服していて出血しやすくなっているんですよね?血小板輸血もいりますか?」

と、時々聞かれます。これは勘違いなのですが、なぜか説明できますか?

アスピリンの作用機序、アラキドン酸カスケードを復習してみましょう。

通常のアラキドン酸カスケード

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アラキドン酸カスケード

こちらは正常状態のアラキドン酸カスケードです。機械的な刺激などで細胞膜リン脂質からアラキドン酸が放出されます。アラキドン酸はシクロオキシゲナーゼ(COX)によりトロンボキサンA2(TXA2)となり、血小板凝集や血管収縮作用により血栓形成が促進されます。また、同じくCOXによりプロスタグランディン(PGI2)もでき、こちらは血小板凝集抑制と血管拡張により血栓抑制作用を来します。血栓に関しては両者は反対の働きをします。一方、リポキシゲナーゼにより炎症、アレルギー物質を放出するロイコトリエン(LT)も生成されます。

アスピリン100㎎を投与した場合

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アスピリン100㎎投与時のアラキドン酸カスケード

アスピリンはCOXを阻害します。するとTXA2の生成が低下し、血小板凝集能が低下、血栓促進作用が抑制されます。これがアスピリンの抗血栓性の作用機序です。PGI2も減少するので血栓抑制作用も阻害されますが、100㎎と少量であればTXA2の抑制が大きく働くので、血栓を抑制する作用のほうが優位になります。容量により作用が変化し、アスピリンジレンマと言われます。

一方、COXが抑制されると、アラキドン酸はリポキシゲナーゼによる代謝が進み、ロイコトリエンが増加、アレルギー反応を来します。これがアスピリン喘息です。

 

つまり、アスピリンにより血小板は凝集が抑制されるだけで数が減るわけではありません。そのため血小板輸血は不要です。貧血が進行している際は赤血球輸血、出血源の同定と治療が必要になります。