循環器内科医の本棚

循環器内科医による患者さん、一般内科医、研修医のためのブログ

医師のための英会話、どのタイプがいい?

 

f:id:drtottoco:20210208151009j:plain
Pch.vector - jp.freepik.com

 

英語ってずっとついて回りますよね。留学する人はもちろんのこと、今は国内学会でも英語で発表、質疑応答を行うものもあります。

英会話を始めたいと思っている方に向けて、いろんなタイプの英会話を経験した筆者がレビューしたいと思います。一長一短ありますので、自分の生活環境や目的に合わせて選択するとよいでしょう。

今回紹介するのは3タイプ

グループレッスン

講師1人に対して生徒5-6人のグループレッスン。初級~上級、ビジネスクラスなど目的やレベル別にいろいろなレッスンがあります。

スクールによってシステムは異なると思いますが、クラス分けのテストを受けて、適切と思われるコースに振り分けます。レッスンはテキストをベースにして進めていくパターン。その日のテーマや覚えるべき重要表現があり、それを応用して使いながら会話をしていきます。講師と一緒にグループで話す時間、クラスメートとペアで話す時間があります。

 

●メリット

・みんなで楽しく学べる

・いろいろなバックグラウンドの人に会える、いろんな人の話を聞ける

・マンツーマンレッスンに比べて安い

●デメリット

・同じレベルのクラス内でも実力差がある

・他人が話すのを聞いている時間もあるため、自分が話す時間が短くなる

 

私はこのタイプに大学時代から長く通っていました。他の人と一緒に学ぶというのがメリットでもあり、デメリットでもあるのですが、3つの中で一番楽しいのはこちらでしょう。いろいろな仕事、年齢層の方々と知り合いになり、話をするのは面白かったですし、ハロウィンパーティーやクリスマスパーティーも開催されていて、楽しかったです。

デメリットとしては自身が話す時間が短くなってしまうこと、同じレベルでも個人差はあるので、ペアでの会話がスムーズにいかないこともお互い様ですが多々あります。相手がだれであれ、アウトプットの練習にはなりますが。

価格も英会話スクールの中ではリーズナブルですので、長期的に英語に触れておきたい、楽しみながら勉強したいという人にはおすすめです。

 

マンツーマンレッスン

マンツーマンレッスンは最も効率がよいと言えます。決まったテキストを使うタイプ、オリジナルでプログラムや教材を決めることができるものもあります。私はスクールのテキストを使うタイプのレッスンを受けていましたが、友人はUSMLEの実技対策として、USMLEのテキストをベースとしてレッスンを受けていました。

問題は価格ですね。特に後者のものはバカ高い。そのため、留学までの3か月とか、USMLEまで、TOEFLテストまで、とか目的がはっきり決まっている人が短期間で集中的に勉強するには適していると思います。

 

●メリット

・自分の目的やレベルに応じたレッスンが受けられる。

・レッスン中はいっぱいしゃべれる。

●デメリット

・価格がとても高い。

 

オンラインレッスン

上記の通学タイプのスクールと併用して、大学時代からオンラインレッスンを受講しています。

メリットは価格が安くてマンツーマンということ。1回あたりは数百円なので、毎日受講できます。いろいろありますが、私はこのrare jobを使っています。以前と比べてメニューやサポートが増えた代わりに価格がちょっと上がりましたが、それでもかなり安いです。フリートークの他、オンライン上の教材を用いるものもあります。Daily news articleはreading、内容を理解して自分の言葉で質問に答える、関連した質問に関して自分の意見を述べる、など学会のdiscussionのところにも通じるものがあるので、医師には特におすすめです。デメリットとしては、英語教育が専門でない講師も多いのでスクールには講師のよりは質が落ちてしまうかと思いますが、コスパはかなりよし!お気に入りの講師を見つけたり、「間違いがあったら指摘してください、他にいい表現があったら教えてください」など最初に言っておいたりすれば、より質のよいレッスンが受けられると思います。フィリピン人講師なので、なまりがある人もいますが、特に気になりません。なぜって私たちが目指すところはネイティブの完璧な英語ではなく、英語で他国の人たちとコミュニケーションが取れるようになること。学会でも東南アジアのなまり強めの英語を一生懸命聞かないといけないこと、ありますよね。

 

●メリット

・価格が安いので、毎日でも受講できる。

・マンツーマンレッスンを受けられる。

●デメリット

・講師が英語教育のプロでないこと多数。

 

まとめ

楽しみながら継続的に英会話に触れたい人→グループレッスン

明確な目的があって短期集中でがんばりたい人→マンツーマンレッスン

だれでも、もしくは上記との併用→オンラインレッスン

 

つくづく思うのは「継続は力なり」ということです。英会話はoutput>inputになると思いますが、英会話スクールに行って話すだけで、家でinputをしなければ英語力はつきません。そしていきなり上手になるということもありません。

自分の生活スタイルや目的に応じて、ご自身にぴったりのものを見つけてください。一緒にがんばりましょう!

抗血小板薬2剤(DAPT)は一生飲み続けるの?

心筋梗塞や狭心症に対して経皮的冠動脈形成術(PCI)を行い、抗血小板薬2剤(DAPT)が始まりました。いつまで飲み続ければよいのでしょうか。 

f:id:drtottoco:20210206005339p:plain

 

虚血性心疾患で使用される抗血小板薬の種類 

・アスピリン 81~162㎎ (バイアスピリン 100㎎) 

・プラスグレル 3.75㎎ (エフィエント 3.75㎎) 

・クロピドグレル 75㎎ (プラビックス 75㎎) 

基本的には アスピリン+プラスグレル、アスピリン+クロピドグレルの組み合わせです。 

プラスグレル、クロピドグレルはチエノピリジン系と呼ばれます。 

 

出血リスク vs 血栓リスク 

心筋梗塞の場合も安定狭心症の場合もバイアスピリンは事情がなければ一生飲み続けることがclass Iで推奨されています(チエノピリジン系抗血小板薬1剤でも可) 

もう一剤をいつまで続けるか?これは「出血リスクと虚血リスクを考慮して、患者さんごとに」決定します。 

これがやや複雑なところなのですが、循環器学会のガイドライン2020JCSガイドラインフォーカスアップデート版冠動脈疾患患者における抗血栓療法)には下記のような表が掲載されています。 

f:id:drtottoco:20210205235352p:plain

日本循環器学会 冠動脈疾患患者における抗血栓療法

簡単に言えば出血に気を付けるべきか、ステント内血栓症に気を付けるべきかというところです。高齢で体格が小さい、消化管出血の既往がある、いかにも出血のリスクが高い人には早めにバイアスピリン1剤に切り替えたいと思いますし、糖尿病、CKD、高血圧などのcoronary risk factorがそろっている人でステントが3枝に入っているような人は再度虚血イベントを起こす可能性も高いですので、できればDAPTを継続したいといったところです。 

 

f:id:drtottoco:20210205235558p:plain

日本循環器学会 冠動脈疾患患者における抗血栓療法

急性心筋梗塞の場合 

安定狭心症よりも急性心筋梗塞を起こした患者さんのほうが血栓リスクが高いので、両者における抗血小板薬の使用には少し違いがあります。 

心筋梗塞後ではDPAT3~12ヵ月の継続が基本です。心筋梗塞を起こしたというだけで血栓リスクが高いので、出血のリスクが高くなければできるだけ長期継続が望ましいとされています。ただし、出血リスクが高い場合にはDAPTの期間を1~3ヶ月に短縮できるとされており、その際はアスピリンではなくチエノピリジン系抗血小板薬を残すようにします。アスピリンとチエノピリジン系のどちらを残すか、ということは明確にはされておらず、試験進行中ですが、チエノピリジン系はアスピリンと比較して出血イベントを増やさずに虚血イベントが有意に少なかったとの報告があり、血栓リスクが高い場合には積極的に考慮するとされています。 

 

安定狭心症の場合 

安定狭心症のDAPT気管は1~3ヶ月が基本です。こちらも出血リスクと血栓リスクに応じてDAPT期間を適宜変更します。血栓リスクが高い場合は、出血イベントがなければ30カ月までDAPTを継続してもよいとされています。 

 

ずーっとDAPTを飲み続けている患者さんはいませんか? 

薬剤溶出性ステントが改良されているおかげで、昔に比べるとステント内血栓症がかなり減少しました。そのおかげでDAPT期間を短縮することができています。欧米人に比べて体格の小さい日本人は出血のイベントが多いとされているので、出血リスクの低減のためにもDAPT期間を短くすることが大事です。 

以前に虚血性イベントを起こして以来、ずーっとDAPTが継続になっている患者さんをたまに見かけます。ベアメタルステントや薬剤溶出性ステントの中でもステント内血栓のリスクが比較的高い第1世代のステントCypherステント)の場合はできるだけDPAT継続がよい気もしますが、それ以外のステントで安定しているにも関わらず、DAPTを飲み続けている患者さんはいませんか?年齢とともに出血リスクは増加しますので、出血リスクと血栓リスクを一度見直してみるのがよいでしょう。 

心不全患者さんの外来管理で気を付けること3つ

前回の記事では心不全においては利尿薬の併用が望ましいことをお伝えしました。

さて、心不全患者さんが入院治療を終え、無事退院することになりました。入院は総合病院で、外来はかかりつけの先生方に任されることも多いかもしれません。外来管理の際にはどのような点に気を付ければよいでしょうか。

f:id:drtottoco:20210204220537p:plain

 

①増悪の兆候がないかチェック、息切れや浮腫、体重増加

かかりつけ医の先生にお願いしたい一番大切なことはこれです。心不全は治る病気ではなく、付き合っていく病気です。増悪、寛解を繰り返しながら長い時間をかけて徐々に悪化していきます。そしてその悪化に早く気づき、外来で対処できるレベルの時に食い止めることが重要です。

息切れはどうでしょうか?普段は大丈夫でも労作時、夜間寝るときの呼吸困難症状がないかを確認しましょう。

浮腫がないかどうか?元気なひとであれば下腿の浮腫が目立ちますが、寝たきりの患者さんの場合は背中や臀部に浮腫がないか確認してください。

そして退院して心不全が改善しているときの体重を知っておくことも大事です。そのときを最もよい状態として、どの程度体重が増加しているかをチェックしましょう。

まずは自覚症状ですが、BNP, NT-pro BNP、CXRでの胸水などの検査所見も総合して判断します。

もしどれかが悪くなっているようであれば対処が必要です。軽度の浮腫であれば利尿薬を追加する、治療に迷うようであればためらわずに入院していた病院に連絡してください。

②心不全薬の継続

心不全で一度入院すると、何剤も薬が追加になって帰ってきます。「薬減らせませんか?」という患者さんもいらっしゃることと思いますが、心不全の場合、特に心機能が低下しているHFrEFの場合、必要な薬が多いのです。

・利尿薬:併用になっている場合が多いと思います。心不全のコントロールで適宜増減して構いませんが、気を付けたいことが2つ。

①抗アルドステロン薬(スピロノラクトン、エプレレノン):これらは予後改善効果がると報告されています。利尿効果はいまいちな印象ですが、心不全は長期戦です。高K血症、腎機能増悪がない場合はできるだけ継続しましょう。

②トルバプタン:こちらは入院でないと導入できませんので、一度やめてしまうと再導入に入院が必要になってしまいます。7.5㎎錠を半錠でかまわないので、今後必要になるかもしれない場合は続けておくほうが無難です。ただし、ひどい脱水や高ナトリウム血症の場合はやめましょう。

・β遮断薬:絶対に継続!こちらも予後改善のエビデンスがあります。しかも最大容量まで増やしたほうがよいとされています。カルベジロールは20㎎まで、ビソプロロールは5㎎まで。低血圧、徐脈がある場合はやむを得ず減量しますが、少量でも入っている方がよいです。

・ACE阻害薬、ARB:こちらも絶対に継続!ACE阻害薬のほうがエビデンスがありますので、副作用で使えない場合以外はARBよりもACE阻害薬を優先します。CKDの患者さんにはKに注意して入れましょう。急性腎不全の場合は一度やめなければならないこともあります。

③生活指導

内服コンプライアンスはよいか?

塩分制限できているか?

これらができずに心不全増悪で救急外来に運ばれてくる患者さんがよくいらっしゃいます。外来のたびに家での様子を聞いて、患者さんにも心がけるようにしてもらいましょう。

 

心不全加療は長期戦ですので、外来加療がとても大事です。患者さんが健康に長生きできるように、適切に加療、アドバイスしていくことが必要です。

今日の本

 

とりあえずのラシックスにご用心!心不全入院治療編

f:id:drtottoco:20210201205508p:plain

心不全で入院している患者さん。うっ血や浮腫が改善しないからといって「とりあえずラシックス!」になっていませんか?心不全に対する利尿薬は必須ですが、適切な利尿薬の使い方をするようにしましょう。

 

 救急外来では「とりあえずラシックス!」でもよい

前回の記事でCS1心不全に対する救急外来での治療について述べました。

www.drtottoco.site

救急外来では心不全と診断がつき次第、うっ血が強い場合は早めにうっ血を解除してあげることが大事です。そのため、「とりあえずラシックス1A IV」は正解と言えます。ラシックスは即効性があるため、ひとまず現状を改善するのに使いやすい薬です。早い場合にはIVから10分程度で希釈尿が出始めることもあります。2時間ほどたっても全く効果がない場合には追加や増量を検討してもよいでしょう。

しかし、入院後効果が不十分だからと言ってラシックスをどんどん増量してくのはよくありません。利尿薬はラシックスだけではありません。併用して上手に治療しましょう。

入院後の利尿薬、ラシックス以外も上手に使おう

ラシックスは言うまでもありませんが、静注薬と内服薬があります。ラシックス20㎎ IV=ラシックス10㎎内服と換算できます。ラシックスは入院初期には点滴で使用し、安定してきたら内服に切り替えることが多いと思います。うっ血が主体で浮腫が軽度の場合、軽度の浮腫のみの場合はラシックス1剤でも十分に治療がうまくいくこともあります。注意しなければならないのはラシックスのみでは効果が不十分な場合です。

ラシックスは腎機能を増悪させたり、低ナトリウム血症、低カリウム血症を招いたりします。また、ラシックスの使用量が多いほど予後が不良であったという研究もあります。(ラシックス使用量が多い=重症な心不全という要素もあるため、一概にラシックスのせいとは言えませんが。)

ラシックスの効果が不十分な場合、追加の薬剤を考慮します。

トルバプタンを使う

トルバプタンはバソプレッシン受容体拮抗薬であり、水の再吸収を阻害します。水利尿を来しナトリウムを上昇させるため、低ナトリウム血症を来している心不全には使いやすい薬剤です。ただ、患者さんによっては1日に2-3Lの利尿が得られることもあり、急激な高ナトリウム血症を来すことがあるので、注意が必要です。

使用する場合の注意としては①他の利尿薬と併用すること②導入する際は入院で導入すること③飲水制限はせずに口渇を感じたら飲水してもらうよう指導することがあります。

①トルバプタンの位置づけとしては他の利尿薬で効果がない場合となっています。

②上記のように高ナトリウム血症や脱水を来す場合があるため、導入の際は血液検査や尿量を注意深くフォローする必要があります。一度やめてしまうと、再導入の際には再入院が必要となるため、本当にいらない場合以外は減量で対応するほうがよいかもしれません。

③心不全患者さんは飲水制限をかけていると思いますが、脱水のリスクがあるため、口渇を感じたら飲水するよう指導します。口渇を感じて自分で飲水できないような患者さんには処方しないほうがよいでしょう。

抗アルドステロン薬 スピロノラクトンを使う

スピロノラクトンはカリウム保持性利尿薬として知られています。ラシックスは低カリウム血症を来しやすいので、カリウムが低下している患者さんには使用するとよいです。ただし、腎機能障害がある場合には注意が必要です。

そしてスピロノラクトンにはHFrEF患者において予後を改善したとの報告があり、HFrEFの患者さんには積極的に使用するようにしましょう。女性化乳房で困る患者さんは女性化乳房の副作用がほとんどないエプレレノンを使います。

 

利尿薬はラシックスだけではありません。併用して上手に心不全コントロールをしましょう。

今日の本

 テーマごとに見開き1ページとなっており、読みやすいです。心不全治療の病態、治療、管理ごとに新しいエビデンスが記載されており、おすすめです。

CS1心不全 救急外来での対応の実際

f:id:drtottoco:20210202191508p:plain


救急外来にCS1心不全の患者さんがやってきたら?

75歳男性。数日前から労作時の息切れを自覚していました。今日の夜に急に苦しくなっていてもたってもいられなくなり、救急車を呼び、搬送されてきました。

さて、どうしますか?

※参考までに薬剤の容量も記載しています。一例なので状況に応じて適宜増減して使ってください。

 

 

まず診断をつけよう

まずはバイタルをとって、血行動態を把握し、トリアージします。

BP 180/115、HR 110、SpO2 85% (RA)

酸素投与を開始します。この時点で入院を念頭に治療を進めていくので、急変に備えてすぐにルート確保、動脈採血でガスも含めて確認します。BNPもしくはNT-proBNP、心逸脱酵素も併せて出しておきましょう。

急激な呼吸困難というとCS1心不全や肺静脈血栓塞栓症などが鑑別に挙がります。

身体診察、CXR、ECGをすぐに行います。CXRで肺うっ血、心拡大があれば心不全が疑われます。急性冠症候群による心不全の可能性もあります。エコーで大まかな心機能と弁膜症を確認します。

酸素投与、利尿薬、血管拡張薬

CS1心不全の診断がついたら、酸素投与に加えて、すぐにラシックスの投与を行います。

・ラシックス1A(20㎎)IV 

救急車で来るような苦しくて動けないような場合は尿量を把握するためにも尿カテを入れます。

・ニトロール3ml/h 持続静注

血管拡張薬で静脈系、動脈系を広げるます。これは単なる血圧低下を狙ったものではなく、静脈系を拡張させることで前負荷をとり、動脈系を拡張させることで後負荷をとって一回心拍出量を増加させるという機序があります。ニトロールをはじめとした硝酸薬は低用量で静脈系、高用量で動脈系を拡張させますが、頭痛や長期使用による耐性が問題となります。

ニコランジルを使用するのもよいでしょう。硝酸薬の働きで静脈系を拡張し、ATP感受性カリウムチャネル開口作用により動脈系を拡張させる効果もあります。ニトロールのように耐性を生じにくいというメリットがあります。

強いうっ血があればNPPV

酸素化が悪い場合、うっ血が強い場合はNPPV(非侵襲的陽圧換気)をためらわずに使用します。NPPVは血圧を下げることがあるため、血圧が低い症例では注意が必要です。

ひとまずCPAPモード、酸素濃度100%、PEEP 6 あたりに設定しておき、SpO2や患者さんのNPPVへの慣れを確認しながら適宜変更しましょう。吸気時、呼気時の両方の圧を調整できるBiPAPモードを使ってもよいですが、CO2が貯留していない症例ではCPAPのみで十分です。

 

初期治療が開始できたら、改めて心機能の評価や原因検索を行います。

CS1の初期対応はスピードが重要です。

今日の本

 

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

明日のアクションが変わる循環器救急の真髄教えます [ 川上将司 ]
価格:7040円(税込、送料無料) (2021/2/2時点)


 

心不全の基礎知識 分類と病態

 内科医、研修医なら見ない人はいないというくらいの頻度の高い心不全。ガイドラインでは「なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義されています。心不全と言ってもたくさんの病態が含まれています。今日は研修医も知っておくべき心不全の基礎知識をまとめました。

心不全の主症状 うっ血と体液貯留、低還流症状

心不全には左心不全による症状、右心不全による症状に分けられます。

左心不全による左房圧の上昇により肺うっ血を来し、呼吸困難を来します。これは急激な時間経過で起こるため、夜間突然の呼吸困難で救急車で運ばれるてくるのはこのパターンが多いです。一方右心不全は静脈系のうっ滞、つまり体液貯留がメインであり、緩徐にすすんできます。

低還流症状は易疲労感、乏尿、末梢冷感、低血圧など十分な心拍出が保たれていない状態です。

これらの状態は重なっていることも多いです。また、治療経過に伴い変化してくることもあります。心不全の治療では症状や検査所見などから総合的に現在どういう病態にあるのかを理解し、適切な治療を選択することが重要です。

急性期の診療の指標 クリニカルシナリオ

クリニカルシナリオ(CS)、古くからあるもので国家試験にも出てくるくらい基本的なものですが、実臨床でも患者さんの病態をざっくり理解して、早く治療を始めるのに役立つ分類です。

ガイドラインでもまず、来院10分以内に血行動態を把握してトリアージするように推奨されています。そのときにCSは役立ちます。

 

f:id:drtottoco:20210201202926p:plain

日本循環器学会 急性・慢性心不全ガイドライン

CSはまず、収縮期血圧で分類されます。CS1の場合は肺うっ血がメインの病態であるので、血管拡張薬、場合によってはNPPVを装着してすみやかにうっ血をとってあげることを優先させます。CS2では体液貯留がメインの病態であるので、利尿薬によるvolume reductionが主な治療になります。CS3は心原性ショックの状態であり、ドブタミンなどのカテコラミンを要します。重症の場合にはPCPSが必要となることもあります。

CS4は急性冠症候群による心不全であり、急性冠症候群に対する治療が優先されます。

CS5は純粋な右心不全と定義されます。

このように収縮期血圧で血行動態をざっくり把握できるので、CSは救急外来で便利な指標です。注意すべき点はこれは急性期の評価に用いるものであり、治療開始後や慢性期の病態評価には用いられません。

今、どんな病態?Nohria-Stevenson分類

 

f:id:drtottoco:20210201195744p:plain

日本循環器学会 急性・慢性心不全ガイドライン

治療開始後はNohria-Stevensonの分類により、今どのような状態にいるかを判断します。

心機能での分類

f:id:drtottoco:20210201194639p:plain

日本循環器学会 急性・慢性心不全ガイドライン

心機能の低下しているHFrEFと心機能が保たれているHFpEF、その間のHFmrEFに分けられます。HFrEFに関してはβ遮断薬の有効性やACE阻害薬・ARBの有効性が示されている一方で、HFpEFについては特に有効な薬などは報告されていません。実際にはHFrEFのときに有効とされている薬を使用しているのが現状です。

比較的最近HFmrEFという概念も言われています。この病態がどこに位置するかはまだわからないことが多く、もともとHFrEFが改善してきてHFmrEFになったもの、HFpEFが増悪してHFmrEFになったものでは意味合いが違うのではないかということも言われており、分類する意義もまだ不明です。

心不全の原因を検索しよう

トリアージが終わり、初期治療が開始されたら、心不全の原因の特定を試みます。ガイドラインではMR.CHAMPHというゴロが提唱されています。(覚えづらいと思うのですが…)

Myocarditis 心筋炎

Right-sided heart failure 右心不全、肺高血圧

acute Coronary syndrome 急性冠症候群

Hypertensive emergency 高血圧緊急症

Arrhythmia 不整脈

acute Mechanical cause 機械的合併症(自由壁破裂、弁膜症、急性大動脈解離など)

acute Pulmonary thromboembolism 急性肺血栓塞栓症

High output failure 高拍出性心不全(甲状腺機能亢進症、敗血症、貧血、妊娠など)

まとめ

心不全の治療においては①病態を理解してそれに応じた治療を選択する②原因疾患を明らかにすることが重要です。

今日の本

 

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

明日のアクションが変わる循環器救急の真髄教えます [ 川上将司 ]
価格:7040円(税込、送料無料) (2021/2/1時点)


 

本紹介:心電図の読み方パーフェクトマニュアル

研修医にお勧め!


 

ちょっと大きくて分厚い(350ページほど)ですが、研修医の皆さんには絶対的におすすめな心電図の本です!私も何度もこれを読んで勉強しました。

心電図の基本→正常心電図→波形の異常 という順序で載っています。

軽視されがちですが、一番大事なのは正常波形を理解する、ということだと思います。正常波形がどんなものかを知らなければ、何が異常かわかりませんよね。

そしてこの本はP波の形がおかしい、STの上昇、T波の陰転化など、波形の異常ごとに載っており、臨床に即していて勉強しやすいです。実際には心電図の波形の異常を見て診断するわけで、初めから心筋梗塞、心房細動などとわかっているわけではないですよね。また、P波、QRS波、ST、T波と順番に読んでいくことで見逃しが少なくなります。

心電図波形や模式図が多くて読みやすいので、心電図の本をまだ持っていない研修医の皆さんは是非これを読破してください。

心電図の読み方

①調律は?

②心拍数は?

③P波は正常か? 形、幅

④PQ間隔は正常か?

⑤QRS波は正常か? 軸、幅、ブロック波形、異常Q波はないか?

⑥STは正常か? ST上昇、ST低下はないか?

⑦T波は正常か? 陰性T波、T波増高、T波平坦化はないか?

⑧QT延長はないか?

この順に読んでいく癖をつければ、見逃しが少なくなります。例えば心房細動に注目するあまり、異常Q波を見逃すということがないようにしないといけません。1つずつやっていくと1冊の本が出来上がるほどのボリュームなので、今回は割愛します。

どうしたら心電図が読めるようになる?

心電図の勉強の難しい点は本を読んだだけでは読めるようにならないということです。ST上昇の際に鑑別しなければならない疾患は知っていても、臨床の現場では「この波形ってST上昇って判断していいのかな」と、波形の解釈に迷うことが多いと思います。

研修医の先生方はできるだけ実際の患者さんの心電図に触れるようにし、わからないもの、解釈が難しいものがあれば、上級医の先生に聞く、ということを繰り返すと自分の知識になっていくのではないかと思います。研修医のみなさん、がんばってください!