内科医、研修医なら見ない人はいないというくらいの頻度の高い心不全。ガイドラインでは「なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義されています。心不全と言ってもたくさんの病態が含まれています。今日は研修医も知っておくべき心不全の基礎知識をまとめました。
心不全の主症状 うっ血と体液貯留、低還流症状
心不全には左心不全による症状、右心不全による症状に分けられます。
左心不全による左房圧の上昇により肺うっ血を来し、呼吸困難を来します。これは急激な時間経過で起こるため、夜間突然の呼吸困難で救急車で運ばれるてくるのはこのパターンが多いです。一方右心不全は静脈系のうっ滞、つまり体液貯留がメインであり、緩徐にすすんできます。
低還流症状は易疲労感、乏尿、末梢冷感、低血圧など十分な心拍出が保たれていない状態です。
これらの状態は重なっていることも多いです。また、治療経過に伴い変化してくることもあります。心不全の治療では症状や検査所見などから総合的に現在どういう病態にあるのかを理解し、適切な治療を選択することが重要です。
急性期の診療の指標 クリニカルシナリオ
クリニカルシナリオ(CS)、古くからあるもので国家試験にも出てくるくらい基本的なものですが、実臨床でも患者さんの病態をざっくり理解して、早く治療を始めるのに役立つ分類です。
ガイドラインでもまず、来院10分以内に血行動態を把握してトリアージするように推奨されています。そのときにCSは役立ちます。
CSはまず、収縮期血圧で分類されます。CS1の場合は肺うっ血がメインの病態であるので、血管拡張薬、場合によってはNPPVを装着してすみやかにうっ血をとってあげることを優先させます。CS2では体液貯留がメインの病態であるので、利尿薬によるvolume reductionが主な治療になります。CS3は心原性ショックの状態であり、ドブタミンなどのカテコラミンを要します。重症の場合にはPCPSが必要となることもあります。
CS4は急性冠症候群による心不全であり、急性冠症候群に対する治療が優先されます。
CS5は純粋な右心不全と定義されます。
このように収縮期血圧で血行動態をざっくり把握できるので、CSは救急外来で便利な指標です。注意すべき点はこれは急性期の評価に用いるものであり、治療開始後や慢性期の病態評価には用いられません。
今、どんな病態?Nohria-Stevenson分類
治療開始後はNohria-Stevensonの分類により、今どのような状態にいるかを判断します。
心機能での分類
心機能の低下しているHFrEFと心機能が保たれているHFpEF、その間のHFmrEFに分けられます。HFrEFに関してはβ遮断薬の有効性やACE阻害薬・ARBの有効性が示されている一方で、HFpEFについては特に有効な薬などは報告されていません。実際にはHFrEFのときに有効とされている薬を使用しているのが現状です。
比較的最近HFmrEFという概念も言われています。この病態がどこに位置するかはまだわからないことが多く、もともとHFrEFが改善してきてHFmrEFになったもの、HFpEFが増悪してHFmrEFになったものでは意味合いが違うのではないかということも言われており、分類する意義もまだ不明です。
心不全の原因を検索しよう
トリアージが終わり、初期治療が開始されたら、心不全の原因の特定を試みます。ガイドラインではMR.CHAMPHというゴロが提唱されています。(覚えづらいと思うのですが…)
Myocarditis 心筋炎
Right-sided heart failure 右心不全、肺高血圧
acute Coronary syndrome 急性冠症候群
Hypertensive emergency 高血圧緊急症
Arrhythmia 不整脈
acute Mechanical cause 機械的合併症(自由壁破裂、弁膜症、急性大動脈解離など)
acute Pulmonary thromboembolism 急性肺血栓塞栓症
High output failure 高拍出性心不全(甲状腺機能亢進症、敗血症、貧血、妊娠など)
まとめ
心不全の治療においては①病態を理解してそれに応じた治療を選択する②原因疾患を明らかにすることが重要です。
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