循環器内科医の本棚

循環器内科医による患者さん、一般内科医、研修医のためのブログ

とりあえずのラシックスにご用心!心不全入院治療編

f:id:drtottoco:20210201205508p:plain

心不全で入院している患者さん。うっ血や浮腫が改善しないからといって「とりあえずラシックス!」になっていませんか?心不全に対する利尿薬は必須ですが、適切な利尿薬の使い方をするようにしましょう。

 

 救急外来では「とりあえずラシックス!」でもよい

前回の記事でCS1心不全に対する救急外来での治療について述べました。

www.drtottoco.site

救急外来では心不全と診断がつき次第、うっ血が強い場合は早めにうっ血を解除してあげることが大事です。そのため、「とりあえずラシックス1A IV」は正解と言えます。ラシックスは即効性があるため、ひとまず現状を改善するのに使いやすい薬です。早い場合にはIVから10分程度で希釈尿が出始めることもあります。2時間ほどたっても全く効果がない場合には追加や増量を検討してもよいでしょう。

しかし、入院後効果が不十分だからと言ってラシックスをどんどん増量してくのはよくありません。利尿薬はラシックスだけではありません。併用して上手に治療しましょう。

入院後の利尿薬、ラシックス以外も上手に使おう

ラシックスは言うまでもありませんが、静注薬と内服薬があります。ラシックス20㎎ IV=ラシックス10㎎内服と換算できます。ラシックスは入院初期には点滴で使用し、安定してきたら内服に切り替えることが多いと思います。うっ血が主体で浮腫が軽度の場合、軽度の浮腫のみの場合はラシックス1剤でも十分に治療がうまくいくこともあります。注意しなければならないのはラシックスのみでは効果が不十分な場合です。

ラシックスは腎機能を増悪させたり、低ナトリウム血症、低カリウム血症を招いたりします。また、ラシックスの使用量が多いほど予後が不良であったという研究もあります。(ラシックス使用量が多い=重症な心不全という要素もあるため、一概にラシックスのせいとは言えませんが。)

ラシックスの効果が不十分な場合、追加の薬剤を考慮します。

トルバプタンを使う

トルバプタンはバソプレッシン受容体拮抗薬であり、水の再吸収を阻害します。水利尿を来しナトリウムを上昇させるため、低ナトリウム血症を来している心不全には使いやすい薬剤です。ただ、患者さんによっては1日に2-3Lの利尿が得られることもあり、急激な高ナトリウム血症を来すことがあるので、注意が必要です。

使用する場合の注意としては①他の利尿薬と併用すること②導入する際は入院で導入すること③飲水制限はせずに口渇を感じたら飲水してもらうよう指導することがあります。

①トルバプタンの位置づけとしては他の利尿薬で効果がない場合となっています。

②上記のように高ナトリウム血症や脱水を来す場合があるため、導入の際は血液検査や尿量を注意深くフォローする必要があります。一度やめてしまうと、再導入の際には再入院が必要となるため、本当にいらない場合以外は減量で対応するほうがよいかもしれません。

③心不全患者さんは飲水制限をかけていると思いますが、脱水のリスクがあるため、口渇を感じたら飲水するよう指導します。口渇を感じて自分で飲水できないような患者さんには処方しないほうがよいでしょう。

抗アルドステロン薬 スピロノラクトンを使う

スピロノラクトンはカリウム保持性利尿薬として知られています。ラシックスは低カリウム血症を来しやすいので、カリウムが低下している患者さんには使用するとよいです。ただし、腎機能障害がある場合には注意が必要です。

そしてスピロノラクトンにはHFrEF患者において予後を改善したとの報告があり、HFrEFの患者さんには積極的に使用するようにしましょう。女性化乳房で困る患者さんは女性化乳房の副作用がほとんどないエプレレノンを使います。

 

利尿薬はラシックスだけではありません。併用して上手に心不全コントロールをしましょう。

今日の本

 テーマごとに見開き1ページとなっており、読みやすいです。心不全治療の病態、治療、管理ごとに新しいエビデンスが記載されており、おすすめです。