循環器内科医の本棚

循環器内科医による患者さん、一般内科医、研修医のためのブログ

ペースメーカーの基本

今回はペースメーカーの基本について説明します。

 

ペースメーカー

ペースメーカの適応は徐脈性不整脈です。

日本循環器学会ガイドラインでは洞不全症候群、房室ブロック、徐脈性心房細動、2枝および3枝ブロック、神経調節性失神などに分かれて適応が記載されています。

 

疾患ごとに適応は異なりますが、徐脈性不整脈による症状(失神、めまい、眼前暗黒感、息切れ、心不全)がある場合症状がなくとも3度房室ブロックの場合はclass Iの適応になります。

 

ペースメーカは本体+リードから成っています。

本体はバッテリーです。

リードには心房リード(Aリード)心室リード(Vリード)の2種類があり、心房リード(Aリード)は右心耳、心室リード(Vリード)は右室(中隔もしくは心尖部)に留置するのが基本です。それぞれ、①センシング ②ペーシング の2つの役割があります。簡単に説明すると、センシングは自分の脈を感知する、ペーシングは徐脈で少ない自己脈を補うために刺激を送って脈を打つ機能です。病態によってはリードが1本の人もいます。

ペースメーカ植込み後の胸部レントゲン



ペースメーカー患者の心電図

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ペースメーカ患者の心電図

P波前の鋭い波が心房のペーシングスパイク、QRS波前の鋭い波が心室のペーシングスパイクです。ペーシングスパイク後のP波、QRS波はそれぞれAリード、Vリードからペーシングされていることがわかります。誘導によっては見えないことがあるので、すべての誘導を見ることが大事です。

この心電図では4拍目のみApVp(AペースVペース PもQRSもペーシング)、その他の拍はAsVp(AセンスVペース Pは自己脈でQRSはペーシング)とよみます。

ペースメーカのリードでセンシングする際は、12誘導心電図の時のようにP波、QRS波とは呼ばずに、心房波(A波、12誘導心電図ではP波に当たる)心室波(V波、12誘導心電図ではQRS波に当たる)と呼ばれます。

ペースメーカーのモード

モードはアルファベット3文字+数字で表されます。

ペースメーカーの設定

例えば「DDD 60」

一文字目:D 心房、心室の両方でペーシング(リードから刺激を出して脈を打つ)

二文字目:D 心房、心室の両方でセンシング(自己脈を感知する)

三文字目:D 自己脈に対する反応 I(Inhibit; 自己脈が出たらペーシングは抑制)/T(Trigger; 心房と心室を同期させる)の両方行う 

※基本的にはTが使われることはありません。

60:lower rate  最低担保する脈拍数

 

いろいろな組み合わせがありそうですが、DDD, VVI, AAIが基本的に使われるモードです。

AAI

・自己のA波が出た➡Aリードでセンシングあり➡Inhibit  ペーシングを抑制する

・自己のA波が出なかった➡Aリードでセンシングなし➡ペーシングする

房室伝導は保たれている洞不全症候群の場合に使われます。

VVI

・自己のV波が出た➡Vリードでセンシングあり➡Inhibit  ペーシングを抑制する

・自己のV波が出なかった➡Vリードでセンシングなし➡ペーシングする

1本のリードで最低限の脈拍数が担保できるので、一時的ペーシングの際や徐脈性心房細動の際に使われます。房室ブロックの際はA波、V波が同期しているほうがよいので、DDDを使用します。

DDD

いろんなパターンがあるため、少し複雑です。AとVに分けて考えます。

DDDペースメーカの作動様式


Aリード

・自己のA波が出た➡Aリードでセンシングあり➡Aペーシングを抑制する

・自己脈のA波が出なかった➡Aリードでセンシングなし➡Aペーシング

Vリード

・設定したAV delayの間に自己のV波が出た➡Vリードでセンシングあり➡Vペーシングを抑制する

・設定したAV delayの間に自己のV波が出なかった➡Vリードでセンシングなし➡Vペーシング

 

Aリードの反応2パターン×Vリードの反応2パターン=4パターンあります。

ここでAAIやVVIと異なり3文字目がDとなっています。DualとはInhibitとTriggerの両方行うということを指します。InhibitはAAIやVVIと同様に自己脈が出たら抑制するということです。TriggerにはAとVを同期させるという役割があります。DDDではAV delayというものを設定しておきます。自己、ペーシングに関わらず、A波が出た後に○○〇msの間(これがAV delay)待って、その間に自己のV波が出るかどうかを判断し、ペーシングするか抑制するかを決めるというものです。

その他

これらの設定を基本として、モードスイッチといって普段はDDDだけど、心房細動が出たときにDDIに切り替わったり、MVPとといって普段AAIで房室ブロックになった際にDDDモードに切り替わるモードもあります。ペースメーカーは「徐脈になったら作動して、自己脈がでるならそちらを優先する」ように設定するのが基本です。それは生理的な伝導のほうがよいから、バッテリーを温存したいから、という理由があります。

ややこしいので基本は上記の3つのモードを理解していれば十分です。

 

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