循環器内科医の本棚

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抗血小板薬2剤(DAPT)は一生飲み続けるの?

心筋梗塞や狭心症に対して経皮的冠動脈形成術(PCI)を行い、抗血小板薬2剤(DAPT)が始まりました。いつまで飲み続ければよいのでしょうか。 

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虚血性心疾患で使用される抗血小板薬の種類 

・アスピリン 81~162㎎ (バイアスピリン 100㎎) 

・プラスグレル 3.75㎎ (エフィエント 3.75㎎) 

・クロピドグレル 75㎎ (プラビックス 75㎎) 

基本的には アスピリン+プラスグレル、アスピリン+クロピドグレルの組み合わせです。 

プラスグレル、クロピドグレルはチエノピリジン系と呼ばれます。 

 

出血リスク vs 血栓リスク 

心筋梗塞の場合も安定狭心症の場合もバイアスピリンは事情がなければ一生飲み続けることがclass Iで推奨されています(チエノピリジン系抗血小板薬1剤でも可) 

もう一剤をいつまで続けるか?これは「出血リスクと虚血リスクを考慮して、患者さんごとに」決定します。 

これがやや複雑なところなのですが、循環器学会のガイドライン2020JCSガイドラインフォーカスアップデート版冠動脈疾患患者における抗血栓療法)には下記のような表が掲載されています。 

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日本循環器学会 冠動脈疾患患者における抗血栓療法

簡単に言えば出血に気を付けるべきか、ステント内血栓症に気を付けるべきかというところです。高齢で体格が小さい、消化管出血の既往がある、いかにも出血のリスクが高い人には早めにバイアスピリン1剤に切り替えたいと思いますし、糖尿病、CKD、高血圧などのcoronary risk factorがそろっている人でステントが3枝に入っているような人は再度虚血イベントを起こす可能性も高いですので、できればDAPTを継続したいといったところです。 

 

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日本循環器学会 冠動脈疾患患者における抗血栓療法

急性心筋梗塞の場合 

安定狭心症よりも急性心筋梗塞を起こした患者さんのほうが血栓リスクが高いので、両者における抗血小板薬の使用には少し違いがあります。 

心筋梗塞後ではDPAT3~12ヵ月の継続が基本です。心筋梗塞を起こしたというだけで血栓リスクが高いので、出血のリスクが高くなければできるだけ長期継続が望ましいとされています。ただし、出血リスクが高い場合にはDAPTの期間を1~3ヶ月に短縮できるとされており、その際はアスピリンではなくチエノピリジン系抗血小板薬を残すようにします。アスピリンとチエノピリジン系のどちらを残すか、ということは明確にはされておらず、試験進行中ですが、チエノピリジン系はアスピリンと比較して出血イベントを増やさずに虚血イベントが有意に少なかったとの報告があり、血栓リスクが高い場合には積極的に考慮するとされています。 

 

安定狭心症の場合 

安定狭心症のDAPT気管は1~3ヶ月が基本です。こちらも出血リスクと血栓リスクに応じてDAPT期間を適宜変更します。血栓リスクが高い場合は、出血イベントがなければ30カ月までDAPTを継続してもよいとされています。 

 

ずーっとDAPTを飲み続けている患者さんはいませんか? 

薬剤溶出性ステントが改良されているおかげで、昔に比べるとステント内血栓症がかなり減少しました。そのおかげでDAPT期間を短縮することができています。欧米人に比べて体格の小さい日本人は出血のイベントが多いとされているので、出血リスクの低減のためにもDAPT期間を短くすることが大事です。 

以前に虚血性イベントを起こして以来、ずーっとDAPTが継続になっている患者さんをたまに見かけます。ベアメタルステントや薬剤溶出性ステントの中でもステント内血栓のリスクが比較的高い第1世代のステントCypherステント)の場合はできるだけDPAT継続がよい気もしますが、それ以外のステントで安定しているにも関わらず、DAPTを飲み続けている患者さんはいませんか?年齢とともに出血リスクは増加しますので、出血リスクと血栓リスクを一度見直してみるのがよいでしょう。